(※この記事は2010年から2014まで北米報知紙上で連載されていたコラムを再掲載したものです)
ニュースなどでドメスティックバイオレンス(DV)と聞いても、被害に遭った人でなければ、なかなか実態を想像するのが難しく、どう行動すればいいのか考える機会も少ないと思います。今回はアジア・太平洋諸島系のコミュニティーとともに活動するAPI CHAYAが、暴力のない地域づくりのために取り組むユニークなプログラム「ナチュラルヘルパー」を紹介したいと思います。執筆にあたり、同団体のユキさん、エマさん、ジュディスさんにお話を伺いました。
ナチュラルヘルパーとはどのような活動なのですか?
ナチュラルヘルパーとは地域の普通の人々や、リーダーのことをいいます。美容師だったり、カフェのバリスタであったり、学校の先生やレストランのオーナーなど、誰もがナチュラルヘルパーになり得ます。
ナチュラルヘルパーとは、多様な文化の存在する地域社会で、私たちのようなDVや人身売買の被害者サポートを行う団体の目となり耳となるボランティアのことです。
本プログラムでは、様々な社会問題(DV、デートDVなどの親しい人からの暴力、性的暴力、人身売買)についてトレーニングを行い、地域の人々がこれらの問題について認識を高められるようなスキルを身につけてもらいます。
個々の地域にはそれぞれ違うニーズがあり、価値感や問題の解決方法も違うはずです。私たちのようなNPO団体と人々とが協力し、創造的に取り組むによって、様々な文化的背景のコミュニティーに合ったプログラムや計画を作っていくことができます。
トレーニングを受けてナチュラルヘルパーになったら、どのような活動に参加するのですか?
アウトリーチや教育といった、コミュニティーへの啓蒙活動です。イベントや関連のプログラムを実施したり、新たにナチュラルヘルパーを募ったり、保護命令の申請などのために法廷へ付き添ったり、などということが考えられます。
他にも様々な方法で、暴力のないコミュニティー作りという使命に向けて活動することができると思います。ご自身のスキルや経験を活かすような形で参加していただければ、と思います。
なぜこのようなプログラムが必要なのでしょうか?
本プログラムは、各地域に暮らす人をコミュニティーのリーダーとして育成することができます。そのコミュニティーでDVのことをもっと理解してもらう、長期的な社会変化のために活動していくなど、人々のリーダーシップを養うことができる点で意義のあるプログラムであると考えています。
どうしたらナチュラルヘルパーになれますか?
API CHAYAでは、今回の参加締め切りは過ぎましたが、8月20日から10月10日までナチュラルヘルパートレーニングを毎週月曜日と水曜日の午後5時半から8時半までシアトルで行っております。
本トレーニングでは、社会的抑圧(Oppression)、DV、性的暴力、人身売買など問題について、とくにアジア系コミュニティー(アジア、南アジア、太平洋諸島)の移民女性、若者、同性愛者に焦点をあてて学び、話し合います。
トレーニングの講師は豊富な知識と経験を持っていますので、参加者の皆さんが専門的な知識を身に付け、友人や地域住民をサポートし、暴力のない社会作りに貢献することにつながると思います。
トレーニングを受けるのは大変なことのように感じますが。
この類のトレーニングはコミットメント(活動へ積極的に関与すること)が求められますが、参加してみたいと思う人には、ぜひトレーニングを受けていただきたいと思います。
私たちがトレーニングで扱う問題の多くは、通常、話してはいけないとされる個人のプライベートやタブーに関わることです。しかし、トレーニングを通して、参加者の皆さんは既存の価値観、ものの見方、信念に疑問を投げかけることになります。これは物事を批判的に考える能力を高めるよい機会となります。
トレーニングでは、皆さんが安心して議論に参加し、参加者同士が学びあえるような安全な場が提供されます。トレーニング中やトレーニング後の通訳やエモーショナルサポートも用意しております。
私はDVのトレーニングを受けたことがありません。自分の周りの人がDVの被害を受けているのでは、と気づいたとき、どうすればいいか、大事なことをひとつおしえてください。
被害者が自分は何をしたらいいのか、あなたに聞いてくるかもしれませんが、その人にこうしなさい、という指示をしないことです。私たちは、彼らをエンパワーし、彼らが自己決定する力を取り戻すのをサポートするべきです。
彼らの話を聞き、信じて、話した内容を口外しないようにしてください。そして、助けがあることを伝えてください。もし可能でしたら、私どものような団体に紹介してください。
最後に
「ナチュラルヘルパー」プログラムはDV問題の解決に焦点をあてていますが、同時にジェンダーや人種間の社会的抑圧の問題を扱うなど、多様な背景をもつ人々が暮らす社会を総合的に考える場でもあることがわかりました。
筆者もアメリカで生活しはじめて、移民という立場だからこそ気づくことがあります。このようなプログラムは、それぞれ異なるコミュニティーでの活動に役立つのではないでしょうか。
ご興味のある方はAPI CHAYAまでご連絡ください。なお、API CHAYAは8日、9日の秋祭りでブースを出します。サービスなどのご質問がある方はこちらで直接質問することも可能です。
連絡先
API Chaya
Phone: (206)325-0325
www.chayaseattle.org
著者:伊藤 悦子