(※この記事は2010年から2014まで北米報知紙上で連載されていたコラムを再掲載したものです)
9月1日号のコラムでは、ドメスティックバイオレンス(以下DV)はあまり報告されていない犯罪だと説明しましたが、それは一体どうしてなのでしょうか? 前回で少し触れましたが、ここで、1995年にロサンゼルスで日系人と日本人移民を対象に行われたDVの意識調査の結果の一部を見てみましょう。
狭いコミュニティー、異国生活の不慣れ
- 調査に参加したロサンゼルス在住の日系人または日本人移民の女性211人の内61㌫が、何らかの形でDVを経験したことがあると報告
- 調査に参加した女性の71㌫が、日本的な物の考え方(がまん、男尊女卑、家族の福利、外に助けを求めない、争い事を避ける等)が、自分のDVの対応のしかたを決める要素になったと報告
- アメリカ生まれの日系人と、日本から移民してきた女性を比べると、83㌫の日系人は友達にDVについて相談するが、移民の場合、43㌫となっている.
- 日本人移民の90㌫は、自分が受けているDVは大した事ではないと考えることが、暴力に耐えるのに役立ったと報告している(日系人の場合は58㌫)
私の団体に相談を持ちかけられる日本人のDV被害者の方はほぼ全員日本で生まれ育ち、成人してからこちらに来られた移民の方々です。この意識調査にもあるように、日本人的な考え方で、長年がまんにがまんを重ね、DVの程度がひどくなるまで助けを求められない方が多いようです。明らかにことばや体の暴力を受けていても、「日本じゃこれが普通ですよね?」で片付けてしまう方もたくさんいます。
その他にも、日本人移民のDV被害者が助けを求められない理由としては、次のような例が挙げられます。
- シアトルの日本人コミュニティーは狭く、自分の状況が他の日本人に知られるのは恥ずかしいと感じる
- シェルターなどに移ったとしても、子供が補習学校やバイリンガル学校に通っている場合、転校や休学は難しく、そこでパートナーと顔をあわせる可能性がある
- アメリカでは、いつどのような状況で警察に通報すればよいのか分からない。また英語ができないので通報しても自分を理解してもらえないのではないかという不安がある
- 日本の法律制度と違い、こちらではDVが理由で離婚しても、ほとんどのケースでは加害者と子供の親権を分け合わなければならない。自分が子供といない時に何が起こるか分からないという心配がある
- アメリカで仕事をした経験が無く、経済的な援助がなければ暮らしていけないと感じる
- パートナーに「警察に通報したら、児童保護サービスに子供を連れて行かれるぞ」と脅された
- パートナーが移民ビザのスポンサーなのだが、一向に手続きをする様子もなく、誰かにDVの事を話せば、不法滞在で国外追放になると言われた
- もし離婚をして日本に帰ったとしても、年齢差別などで、再就職が難しい。まだ日本では離婚に対する悪いイメージがある。
これらはほんの一例で、個人の様々な条件が変われば、状況はもっと複雑になっていきます。それを考えると、「DVはつらいけど、別れてもっとひどい境遇になるよりはマシだ」と何も助けを求められないのもうなずけます。
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