(※この記事は2010年から2014まで北米報知紙上で連載されていたコラムを再掲載したものです)
一人暮らしをしている者です。年を重ねるにつれ、食事の支度をしたりお風呂に入ったりするのが大変になってきました。自宅に居ながら介護を受けられるサービスはありますか?
- 近くに頼れる家族や友人がおらず、一人暮らしを続けることに不安を抱いている方も多いのではないかと思います。日本でも一般化されつつある在宅介護サービスとは、ホームヘルパー(介護士)が介護を必要としている人の自宅に行って、入浴、排泄、着替え、食事の支度、買い物など、日常生活上の世話をすることです。
- 日中だけでなく、夜間の介護も必要とする場合は、住み込みの介護サービスをアレンジすることも可能です。また、薬の投与や傷の手当てなど、看護師の資格の無いホームヘルパーではできないサービス(ナーシングケア)も、訪問看護を行う会社(ホームヘルス・エージェンシー)を通して受けることができます。
- ホームヘルパーの採用方法は、派遣会社を通す、新聞広告やウェブサイトで募集する、知人からの紹介など様々です。派遣会社を通した場合、ホームヘルパーの犯罪暦のチェックやトレーニングは会社が受け持つ上、ヘルパーが辞めてしまった場合次のスタッフをすぐに派遣してくれるなどの長所があります。ただ、個人で雇う場合よりも費用が高くなる、日本語を話せるヘルパーを見つけるのが難しいなどの問題もあるようです。
- 個人でヘルパーを探す場合は、募集広告、面接、料金の交渉、ヘルパーとの契約手続きなどすべて、介護を必要とする本人またはその家族が行う必要があります。また、介護を受ける人が認知症などのためヘルパーを監視できない場合はその家族や友人が、きちんと介護を受けているかを頻繁に確認することをお勧めします。また高齢者がより長く自宅で生活することを可能にするためには、ホームヘルパーによる介護だけでなく、食事配達プログラムや送迎バスサービスを利用する、緊急時用のベルや薬の自動調剤システムを設置する、お風呂場や廊下に手すりを取り付けるなど、高齢者の住みやすい環境に改善する工夫も必要です。
高齢の母が認知症と診断されました。まだ症状は軽いのですが、将来のことを考え今から介護施設について調べてみようと思います。介護施設にはどのような種類があるのか教えてください。
- 今すぐに入居を考えていない場合でも、前もって介護施設について調べておくのは良い事です。介護施設にはアシステッド・リビング、アダルト・ファミリーホーム、ナーシングホームの三種類があります。
- アシステッド・リビングは介護付きアパートのことで、食事や洗濯のほかにも入浴や着替えの手伝いなどの介護サービスを受けられるのが一般です。施設によっては看護師による、ナーシングケアを行っているところや、認知症の入居者のための特別プログラム(メモリーケア)を設けているところもあります。各部屋にはトイレ、シャワールーム、冷蔵庫や流し台などがついているほか、入居者で共有する食堂やアクティビティールームなどがあります。また、入居者同士の交流を図るためのゲームや旅行などのイベントも定期的に行っています。ただし、ほとんどの介護付きアパートは、入居者がある程度自分の身の回りの世話ができることを前提としているので、排泄や歩行などの介護を頻繁に必要とする場合は入居できないこともあります。
- アダルト・ファミリーホームとはワシントン州から介護施設の認定を受けている民家のことで、最高6人までの入居が可能です。どのような介護サービスが受けられるかはアダルト・ファミリーホームによってかなりの差があるようですが、看護師の資格を持つスタッフがいてナーシングケアを受けられるようになっているホームや、認知症、精神病、知的障害を持つ入居者のケアを専門としているところもあります。ホームの大きさにもよりますが、入居者にはそれぞれ個室が与えられ、トイレ、シャワー、ダイニングとリビングルームを他の入居者と共用するのが一般です。介護付きアパートに比べると、ホームでのイベントやアクティビティーは限られていますが、近くのアダルト・デイセンターやシニアセンターで行われるプログラムに参加するなどして、交流の輪を広げることもできます。
- 最後にナーシングホーム(特別養護老人ホーム)について説明します。ナーシングホームは24時間体制の介護施設で、介護士による日常生活上の世話のほかに、看護師によるナーシングケアや理学療法士、作業療法士、言語聴覚士によるリハビリも必要に応じて受けることができます。リハビリの例としては歩行や起立の練習、関節や筋肉の機能回復のための運動、失語症の治療などがあげられます。部屋は2~4名の相部屋がほとんどですが、施設によっては個室をリクエストすることもできます。ナーシングホームは基本的に24時間の介護や看護を必要としている人のための施設ですので、まだある程度自分の身の回りの世話ができる人は入居する条件に見合わないと判断される場合もあります。
- アメリカでは「年を取ってひとりで家に住めなくなったらナーシングホームへ」という考え方が一般のようですが、ナーシングホームの他にも介護にはいろいろな種類があることがお分かり頂けたでしょうか。どのような介護サービスが適切であるかは、介護を必要とする人の状態によって様々ですが、本人が家族、医療関係者(医者、看護師、ソーシャルワーカーなど)や介護施設のスタッフとよく話し合って決めることが理想的です。次月号のコラムでは、介護に掛かる費用やワシントン州長期介護援助プログラムについて、また介護施設を選ぶ時のポイントなどについて説明したいと思います。
著者:三木綾子